スターリン、農民、蓄音機

トロツキー/訳 湯川順夫・西島栄

【解題】トロツキーは、軍事人民委員を解任された1925年から電気技術局の議長として、発電所建設を中心としたドニエプル川総合開発計画に従事してきた。トロツキーはこの計画を、社会主義経済建設にふさわしい大事業として取り組んでいたが、スターリンは、反トロツキーの立場からこの事業に一貫して否定的であり、しばしば妨害してきた。そうした否定的姿勢の顕著な一例が、ここでトロツキーが取り上げている1926年4月総会における「蓄音機」発言である。この「蓄音機」発言は、後の『スターリン全集』の当該報告では削除されている。

 Leon Trotsky, Stalin, the Peasant, and the Gramophone, The Challenge of the Left Opposition (1926-27), Pathfinder, 1980.


 1927年4月13日の中央委員会総会の会議において、ドニエプロストロイ[ドニエプル川総合開発計画]はムジーク(農民)が蓄音機を買うようなものだという趣旨の同志スターリンの発言について私が思い起こさせた時、彼は思わずそれは「うそ」だと言ってしまった。ここに、同志スターリンが1926年の4月総会で述べた発言、その一語一語がある。

 「われわれが今話しているのは、……ドニエプロストロイの資金を自前で調達することである。しかしながら、それには巨額の金額が、数億ルーブルが必要である。いったいどうしてわれわれは、鋤を修繕し農場を改造する代わりにわずかのコペイカを節約して蓄音機を買って破産してしまうムジークのような境遇に陥らなければならないのか?……〔笑い〕 工業計画がわが国の資源に対応していなければならないとする大会決定を考慮に入れることができないのだろうか? それにもかかわらず、同志トロツキーはこの大会決定を考慮に入れなかったのである」(総会の速記録、110頁)。

 同志スターリンはこの問題に関する自分の立場を次のような議論でもって説明しようとしている。1926年時点では、われわれは5年間で5億ルーブル費やすことについて語っていたが、今日ではわずか1億3000万ルーブルについて語っているにすぎない、というものである。だが、たとえそうだとしても、私の言葉は「うそ」ではなかったのである。議論になっている金額に関しては、ここでも同志スターリンはまったくの混乱を持ち込んでおり、このことは、彼が1年前にこの問題を理解できなかったのとまったく同じように、今日いぜんとして理解できていないことを示している。ドニエプロストロイのための費用は、1年前にも1億1000万〜2000万〜3000万と見積もられていたのであって、けっして何億と見積もられていたわけではなかった。それ以降、見積もりは当然ながらより正確になったが、これらの数字の枠内にとどまっている。ドニエプル発電所のつくり出す電力の消費者になる新工場群について言えば、その建設費用は大雑把に見積もって2〜3億ルーブルである。しかしながら、これらの工場群はドニエプロストロイのために建設されているのではない。これらは、自分たち自身のために必要なのである。ドニエプロストロイはこれらの必要な工場に役立つために建設されているのである。その費用はおそらく今後より正確に決められるだろうが、基本的にそれほど大きな違いは生じないはずである。だから、昨年の総会でわれわれが1億1000万〜1億3000万ではなくて5億ドルについて論じていたのだと主張するのは、今見たように、途方もないナンセンスなのである。当時も今も、論議になっている資金の総額はほぼ同じ大きさだったのだ。

 「うそ」という言葉をかくも軽々しく周囲に投げつける同志スターリンの性格をあえて特徴づける必要はないだろう。

1927年4月14日

『左翼反対派の挑戦』第2巻

新規、本邦初訳

 

トロツキー研究所

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