クルプスカヤからジノヴィエフへの手紙

クルプスカヤ/訳 西島栄

【解題】本稿は、クルプスカヤが正式に合同反対派からの離脱を正式に声明するに際して、クルプスカヤがジノヴィエフに宛てた手紙である。

 この手紙を読めばわかるように、クルプスカヤは、反対派の戦術がしだいにエスカレートしてきたことに危惧を深め、ついには反対派の行動が党にとって有害であると考えるようになった。すでにクルプスカヤは、1926年の秋から反対派と行動をともにしていなかったが、手紙で触れられているジノヴィエフの演説をきっかけに、正式に自分が反対派と一線を画す立場にあることを表明するべきであると考えるに至った。レーニンの未亡人であるクルプスカヤの反対派からの離脱は、反対派にとってきわめて重大な政治的打撃となり、反対にスターリンらの主流派にとって大きな得点となった。

Известия ЦК КПСС, No.2, 1989.


 親愛なるグリコリー。あなたはご自分の演説(1)の速記録を送ってきてくれました。私の意見では、あなたは大きな誤りを犯しました。あなたもご存知のように、演説はラジオで放送されていました。したがって、あなたの演説は党にではなく、全国に向けたものだということになります。非党員の労働者や農民大衆は、反対派が党とソヴィエトの基本路線に反対しているとみなすでしょう。このことは、あなたが批判の水準を越えてしまっていることを示しています。自己批判と、弾劾的で検察官的な第三者からの批判とは、まったく別物です。必要なのは、現在つくり出されている状況を克服することであって、悪化させることではありません。繰り返しますが、あなたの演説は、私の意見では誤りでした。先鋭なスキャンダルを引き起こすことを目当てにしていなかったのだとしたら、いったい何を目当てにしてあのような演説を行なったというのでしょうか? 党の政策に影響を与えるために何よりも必要なのは、主流派と反対派とが対立しあう時期を終わらせることです。あなたもご存知のように、私は去年の秋からそうした見方をしてきました。いつまでも空騒ぎを続けることは、その空騒ぎと歴史にとって有害であるように思われます。

 あなたの演説については今では速記録によって自分の目で判断することができましたので、私は新聞の中で自分の観点を表明したいという気持ちになっています(2)。この気持ちは、各地で繰り広げられている反対派の行動について耳にしたことでなおさら強くなりました。これは政治ではなく、空騒ぎです。

 以上のことをあなたに書くのは非常に気の重いことでした。あなたもご存知のように、私はあなたを古い同志として接してきましたし、今もそうです。しかし、あなた方の戦術は誤りだと思っています。

  敬具

  N・クルプスカヤ

1927年5月15日

『ソ連共産党中央委員会通報』1989年2月号

新規、本邦初訳

   訳注

(1)ジノヴィエフが1927年5月9日にモスクワで、『プラウダ』の15周年を記念した集会で行なった演説のこと。この集会は非党員も参加していたことを口実に、スターリン派はジノヴィエフに対する攻撃カンパニアを開始し、党中央委員会は5月12日に「同志ジノヴィエフの組織解体的演説について」という決議を採択した。その中で決議は次のように述べている。「(a)機関紙の日を記念した無党派の集会で行なわれた同志ジノヴィエフの演説は、ソ連共産党中央委員会との諸決議を(したがってまた『プラウダ』を)攻撃したものであり、ソ連共産党(ボ)の隊列においては前代未聞であり、まったく許しがたく耐えがたいものであり、同志ジノヴィエフ自身を含む反対派が自ら引き受けた党規律を遵守する義務を破壊するものであるとみなすこと。(b)同志ジノヴィエフの組織解体的演説の問題を中央統制委員会による検討に移すこと」(『プラウダ』1927年5月12日)。

(2)クルプスカヤは1927年5月19日に反対派からの決別を公的に表明する手紙を執筆して『プラウダ』編集部に送付し、5月20日付『プラウダ』はそれを掲載した。 

 

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