ソ連邦の経済情勢に関する

ルイコフ決議案に対する修正

トロツキー/訳 西島栄

ルイコフ

【解題】本稿は、1926年の4月総会におけるルイコフ決議案に対してトロツキーが提出した包括的な修正案である。この修正案の中でトロツキーは、従来からの、計画原理を強化する必要性、工業建設の立ち遅れによる商品飢饉(商品不足)の発生、といった立場を繰り返しているだけでなく、新たに富農への課税強化という立場を打ち出しており(「農村の上層部へのしかるべき課税を伴った農業税は、国民経済の蓄積を正しく再分配するための重要な梃子の一つでなければならない。したがって、農業税の目標数値の引き上げは、工業の指導的役割に必要不可欠な財政上の保証を行なうという視角から、農業の実質的な成長とその内的な階級分化とに照応して行なわれなければならない」)、これは、左翼反対派とジノヴィエフ=カーメネフ派との政治的接近を画すものとなった。(右の写真はルイコフ)

 初出は『トロツキー研究』第3号だが、今回アップするにあたって、訳文を若干修正した。

 ПОПРАВКИ ТРОЦКОГО К ПРОЕКТУ РЕЗОЛЮЦИИ РЫКОВА О ХОЗЯЙСТВЕННОМ ПОЛОЖЕНИИ СССР, Архив Троцкого: Коммунистическая оппозиция в СССР: 1923-1927, Том.1, 《Терра-Терра》, 1990.


  1、工業と農業の間の不均衡と経済政策の課題

 ネップが有していた基本的であると同時にもっとも差し迫った課題は、農民経済の発展に対する農民自身の関心を復活させることによって、農村における生産力の発展を保証し、この基礎に立って、農業と密接に結びつけて工業を発展させるという課題を解決することであった。この結びつきの市場的な形態に照応して、新経済政策は、「商いを学べ」というスローガンと「使われていないどんなコペイカ硬貨も工業のためにとっておこう」というスローガンとを含んでいた。同時に、党は電化の大計画を提起した。

 プロレタリアートと農民のスムイチカ[提携]の問題が、この政策の基本的な経済的内容を規定した。資本主義的要素に対する社会主義的要素の優位性が増大しつつあるもとで、国家の経済政策の体系が有している課題は、生産力の発展にもとづいて、工業と農業との動的な均衡を保証することである。まったく明らかなのは、この均衡の破壊が主要な二つの場合に生じうることである。一つは、国家が、自らの国庫上の、予算上の、工業上、商業上その他の政策によって、年々の蓄積や一般的な資源のうちの不釣り合いに大きな金額を国民経済の全体から取ってきて工業に引き渡してしまい、その結果、工業があまりにも先走りしすぎて、国民経済から、そして何よりも農業的基礎から遊離し、支払い能力のある需要の不足に逢着する場合である。二つ目は、それとまったく正反対に、国家が自己の手中にあるすべての梃子を用いて、国民経済の資源やその年々の増分から不十分な部分しか[工業のために]取らずに、その結果として工業製品の供給が需要に立ち遅れる場合である。現存しているスムイチカはこの両方の場合に崩壊する。過度に発展が促進された工業は、手に負えないような重荷を農民に課すことによって、農業をだいなしにする。しかし農民は、工業がしかるべき規模で収穫の現金化をまかなうことができず、まさにそれによって卸売りと小売りの鋏状価格差がもたらされる場合にも、それに劣らぬ損害を被ることになるのである。

 第14回党大会は、基本的な指令として国の工業化の路線を提起した。この指令の実現の手段、方法、テンポは、社会主義に向けたわれわれのさらなる前進の運命にとってだけでなく、ソヴィエト連邦における労働者階級の政治的支配の運命にとっても、決定的である。

 わが国における現在の経済情勢の主要な矛盾――これは同時に、都市と農村との間の主要な矛盾でもあるが――は、国営工業が国民経済の発展から立ち遅れているという点にある。工業生産物は支払い能力のある需要を満たしていないために、農業生産物の商品部分の現金化とその輸出を妨げている。そして、こうしたことは、輸出をきわめて狭い枠の中に押し込め、工業の拡大を妨げ、基本的な不均衡の増大にすら導きかねない。すべての資料は次のことを裏づけている。すなわち、わが国の工業はいかなる商品の貯えもなしに1926年度の収穫を迎えることになり、現在の困難がより大きな規模で再生産される可能性がある、ということをである。このような状況のもとでの豊作、すなわち農業における余剰商品の潜在的な増大は、経済の発展を社会主義の方へと促進する要因になるのではなく、反対に、経済を破壊し、都市と農村の相互関係を緊張させ、都市自体の内部では消費者と国家の相互関係を緊張させる要因になるかもしれない。実生活に即して言うならば、豊作は――日用品がない場合には――穀物のより多くが自家製酒の製造に向かい、都市では行列がより長くなる可能性があるのである。このことは、政治的には、外国貿易の独占に対する、すなわち社会主義的工業に対する農民の闘争を意味するであろう。この危険の過小評価は、すぐにではないにせよ将来、――工業と農業の不均衡を維持するかあまりに緩慢にしか克服しないような、経済的諸要因の相互関係がさらに発展する場合には――重大な結果を生むおそれがある。活路は、わが国経済の工業化に向けた第14回大会方針に実際に照応した、経済政策の正しい基本路線を保証することである。

                ※  ※  ※

 去年の終わりと今年の始めにおけるいわゆる経済的誤算、とくに、輸出入の計画や工業の発展や基本建設[工場・住宅などの基本財産の建設のこと]を縮小する必要性が生じたことは、われわれの経済政策の基本的な戦略方針と結びつけてのみ正しく評価することができる。

 過去数年間の経験は、われわれの工業計画がつねに国民経済の発展の歩みや要求に立ち遅れており、市場の直接的な圧力を受けて、途中でその計画を――時には一経済年に数回も、しかもほとんど常に計画を拡大する方向で――再編成してきたということを、証明している。工業の分野でネップ初期から受け継いだスローガン、「農業から遊離しないように、先走りするな」が支配していた一方で、実際には工業はつねに現実の国民経済の資源や要求や可能性から立ち遅れていたのであり、まさにそれによって工業計画の恒常的な破綻と再編成が生じたのである。

 工業計画の歴史を評価することによって党は、その計画の主要な欠陥が、経済発展の、何よりも指導要因としての国営工業の一般的な可能性を過小評価していたことにあるという結論を導きださなければならない。1930年に達成される予定であった水準が、輸送や金属工業のような二つの大きな経済分野で1925年に達成されているという事実を思い起こせば十分である。工業問題において目標が過小に設定されたことが、商品不足が今や例外的な鋭さを帯びていることのもっとも重要な原因なのである。

                ※  ※  ※

 党に工業化の確固たる指令を与えた第14回大会の決議は、それと同時に、それぞれの一定の時点で工業が乗り越えられないし乗り越えてはならない限界をも指摘している。このような限界として、決議の中では「市場の実際の容量と国家の財政資金」が指摘されている。それぞれの一定の時点において工業の発展を制限するこれら二つの要因、すなわち支払い能力のある需要と財政資金とは、もちろん、不変の大きさではないし、われわれの政策から独立した大きさでもない。まったく明らかなことだが、国家の財政資金は、行政上・国庫上・予算上・生産上・商業上の諸施策の全体系によって条件づけられており、その諸施策を通じて国有経済と非国有経済との間に国民経済の蓄積が分配されるのである。国が工業上および商業上の欠乏から脱していないという状態は、国有産業と他の経済の間への国民経済の資源と蓄積の分配が必要な均衡に達していないばかりでなく、近いうちに、とりわけ豊作の場合に、均衡からさらにいっそう離れるおそれがあることを、明白かつ議論の余地なく物語っている。

 昨年の後半に、工業計画と輸入計画とが、その時点で国家が保有していた現金に照応していなかったという事実、すなわちしかるべき修正の必要が生じていたという事実は、いかなる場合であっても工業の発展のテンポを引き下げる論拠となるのではなく、その反対に、工業に振り向けられる国家の資金が、国全体の資金のうち、とりわけその年間の増分のうち、これまでよりも大きな部分を占める結果をもたらす措置が、経済分野でとられるよう要求している。言い換えれば、輸出入計画と工業計画の分野での部分的誤算は、国営工業の可能性と課題とに関して長期にわたって過小な目標設定がなされてきたことの反映であり、そのエピソード的な結果なのである。そして、このような過小な目標設定は工業に対しても農業に対しても等しく打撃を与えている。商品不足のために、そしてとくに[高い]小売り価格のために、農民は、農業税の引き下げによって得たものよりも比較にならないほど多くの額を失っており、それらは私的資本のもうけになっているのである。

 したがって、主要な経済上の困難は、農業(農民の個人的な要求や生産上の要求)に対しても、労働者階級の増大する要求に対しても、工業の規模があまりにも小さすぎることからきている。この不均衡は、農業の成長や労働者階級の増大する要求を妨げることによってではなく、この不均衡を比較的少ない年月で取り除くことを可能にするようなテンポを工業の発展に与えることによって、一掃されなければならないのである。

 今の状態での工業が、その直面している他の死活にかかわる課題――何よりも、工業自身のために必要な、輸送サービスやそれを発展させるために必要な、また国の防衛のために必要な生産手段の生産という課題――を解決できていないために、先に述べた課題はますます抜き差しならない性格を帯びつつあるのである。

 こうしたことを考慮して、総会は政治局に以下の課題を一任している。

 次の経済期間(5〜8年)における工業の発展の将来計画と新しい工業建設とを、農業の今後の成長と不可分に結びつけて具体的に研究する作業にとりかかること。

 また、わが国経済の内的不一致を一掃することに向けてすでに26〜27年の間に重要な一歩を踏み出すことができるような、26〜27年度のあらゆるプログラムや計画の作成に応じた、かかる指令を仕上げること、である。

 この目的に向けて、将来計画は、価格の引き下げ政策を不断に継続するという条件のもとで、仮に31年までに工業製品に対する需要と供給の相対的な均衡を確立することを可能にするために、たとえば5年間のうちに(もしくは、異なった期間のうちに)主要な不均衡を一掃することを展望した作業仮説に立脚していなければならない。かかるプログラムは、もちろん、けっして完全さや正確さを要求するものではないとはいえ、われわれの全経済政策の重要な指針となるものである。

                ※  ※  ※

 以上のような見込みと目的とを達成するために、26〜27年度のプログラムと計画は、下記の条項に立脚していなければならない。

 1、農村の上層部へのしかるべき課税を伴った農業税は、国民経済の蓄積を正しく再分配するための重要な梃子の一つでなければならない。したがって、農業税の目標数値の引き上げは、工業の指導的役割に必要不可欠な財政上の保証を行なうという視角から、農業の実質的な成長とその内的な階級分化とに照応して行なわれなければならない。

 2、小売り価格の引き上げを許してはならない。反対に、あらゆる手段をつくして、その引き下げのために闘わなければならない。卸売り価格に関しては、小売り段階での価格の増額分のうちのこれまでよりも大きな部分が国家と協同組合の手に入るよう考慮して、さまざまな工業部門に応じたより柔軟でより特化された政策を実施すること。

 3、26〜27年度の予算は、十分大きな額の資金が工業に振り向けられるように立てる必要がある。そして、その額は、工業自身の資金が事実上予算を通じて再配分されるにすぎない額以上のものでなければならない。工業の利益となる純差額[工業が国家から受け取る資金と工業が国家に差し出す資金との差額]が、1億5000万〜2億ルーブルより少ないようなことがあってはならないし、さらにこの純差額が増えるように全力を傾ける必要がある。

 これは、非生産的ないっさいの支出を厳しく圧縮するか、少なくともこれ以上の増大をなくすことによって達成されなければならない。われわれはまだ社会主義的な本源的蓄積の時期を卒業していないということを心しておく必要がある。

 4、これまでの経験にもとづいて、ぜひともウォッカの問題を見直さなければならない。この経験は次のこと物語っている。ウォッカの国営販売は、農村から重工業への資金の流入(これが目的だったのだが)にきわめて微々たる役割しか果たしておらず、他方では労働者の賃金に深く食い込む結果になっているのである。

 5、すでに26〜27年から、新しい工業建設のための長期信用を本格的に拡大することができなければならない。長期信用の資金としては、次のようなものが振り向けられるべきである。

 (a)減価償却資金の少なくとも25%

 (b)工業が予備資金を国債に投資する義務から解放されることによって生じるこの資金の50%

 (c)純利益の10%

 (d)いわゆる処分資産[企業内でいらなくなって処分しなければならなくなった資産]の売却から生じる売上高の50%

 6、工業が自動的に自分の生産能力をその達成された水準で保てるように、そしてすべての追加資金がその能力のさらなる向上に振り向けられるように、減価償却の制度を作る必要がある。

 7、26〜27年度の輸出入の計画は、工業の生産能力の向上とかなりの量の技術的な装備の更新を保証するように立てられなければならない。また、後者には、新しい工場群を建設するということも含まれている。

 8、すべての経済政策は、将来(26〜27年)、工業に関して、25〜26年の8億2000万ルーブルではなく、少なくとも10億ルーブル(すなわち少なくとも20%増)の基本建設プログラムが実施できるように作られなければならない。

 9、工業が中断なく回転することを保証している中央の工業用予備資金を増強するために、工業銀行の資金を増やさなければならない。

 10、きたる収穫の現金化を念頭においた体系的な諸施策を立案し、今や実際に準備すること。これは、まず第一に、秋に農民に供給することのできる商品資源を増加させるために、原料(綿花、羊毛、ゴム、皮革、金属)を至急に追加輸入することによって準備されなければならない。第二に、必然的に生じうる商品干渉[国内の消費物資の不足を補うために外国から商品を輸入すること]を準備すること。これは、わが国の国内取引に対応し国営工業の利害と能力に厳密に合致した外国融資の原則にもとづいて立てられる。

 11、国の電化計画をできるだけ精力的なテンポで実施することを保障しなければならない。

 

  2、テンポの問題

 非生産的階級(貴族、それに君主制と特権的官僚層を伴ったブルジョアジー)の収奪、土地の国有化、債務の破棄、工業収入と輸送と信用制度の国家への集中、これらは、過去数年間の経験が争う余地なく証明したように、わが国経済の内部における、資本主義的要素に対する社会主義的要素の明白で疑いのない優位性を保証した。

 しかし、わが国経済の巨大な成功はまさに、わが国経済をますます深く世界市場の連鎖の中に組み込んでいくことによって、今後の成功を、そして何よりもわが国の工業化のテンポを、世界の資本主義経済による相対的な統制のもとに置くことになる。資本主義によって包囲されているにもかかわらず、恣意的なテンポで社会主義に進むことができると考えるとしたら、それは根本的に誤っている。社会主義へのいっそうの前進はただ、わが国の工業と先進資本主義国のそれとを隔てている差――生産物の量、その原価、その質――が広がるのではなく、目に見えるほど明らかに縮まるという条件下においてのみ保証されるであろう。こうした条件下において、そしてこうした条件下においてのみ、わが国の軍事力は、国の社会主義的発展を防衛することのできる技術的基礎を手に入れるのである。

 

  3、工業の指導的役割と農業

 第14回大会の決議は、国民経済全体における国営工業の指導的な役割を指摘している。党の課題は、この指令を十分に解明し、そこからしかるべき結論のいっさいを引き出すことである。外国貿易の独占という条件のもとで国営工業が立ち遅れている場合には、農業の発展は不可避的に克服しがたい障害にぶつかるであろう。国営工業の発展が、農業を全般的に向上させその技術形態および社会形態を刷新する主要な要因になっているという点にこそ、国営工業の指導的役割があるのである。繊維工業の発展は、綿花栽培地域の発展の巨大な梃子であり、綿花栽培業の漸次的な工業化と社会化の前提条件である。製糖業はテンサイ栽培業にとって、ラシャ製造業は牧羊にとって、亜麻織物業は亜麻栽培にとって、缶詰工業は野菜栽培・畜産・漁業にとって、それぞれ同一の意義をもっている。最後に、原料の供給者であるだけではなく工業労働者と事務職員のための食料品の供給者たる農業全体にとって、すべての工業は全体として同一の意義をもっているのである。

 他方では、農業が原始的な古い生産技術にもとづいて戦前の水準に近づきつつある以上、農業のこれ以上の発展は、ただその漸次的な工業化を通じてのみ、すなわち、農業における機械化・電化・人工肥料等々の強力な発展を通じてのみ考えられる。農民経営に対する国家のもっとも実際的な援助形態は、農民にとって必要不可欠な農具を国営工業が生産し、それを特恵的な融資条件にもとづいて広範囲に販売することである。こうしたことは、何よりも、主要な農業地域の特徴と密接に結びついた農業機械製造業の巨大な発展を前提としている。

 

  4、計画原理――その新しい課題と方法

 計画原理の意義は、わが国の経済建設の巨大な成功のうちにも、またその失敗や誤算のうちにも現われている。あれこれの誤算は計画原理に反対する論拠であると考えるとすれば、それはもっとも許しがたい誤りである。反対に、誤算を適時明らかにし、それをとにもかくにも修正する可能性そのものが、経済運営の中央集権的なシステムには与えられているのである。そして、このシステムは、国家行政と市場というその主要な要因の計画的な組み合わせなしに考えることはできない。

 わが国経済の発展は、計画原理を一般的に強化する要求を提起しているだけでなく、この分野での質的に新しい課題をも提起している。現在までのところ、計画化は、近い将来にわたる経済の主要な諸要素の動きを予見し、それらを機動的に組み合わせようとする点にあった。すなわち、計画化は、第12回党大会の決議で特徴づけられたような機能に終始していた。当面の実行課題の枠内にあるこのような機動的計画化は、いわゆる復興期――過去から受け継いだ技術的基礎にもとづいて工業が発展する時期――の範囲内で、十分に達成されたとみなすことができる。今や、復興期の終了とともに、工業と輸送業における固定資本を更新し拡大する必要性は、計画的指導の分野において、古い課題とともにまったく新しい課題をも、党と国家の前に提起している。最近まで、かなりの量の備蓄として未使用の設備を有していた工業が、市場の要求に応じて、短期間で計画上の予定よりもかなり高く生産を発展させることができたとすれば、近い将来において、この方向に沿った発展の可能性は、工業が毎年どれぐらいの資本支出をすることができるかによって規定されるであろう。この資本支出の程度と方向性は、国家によってもっとも厳密にかつもっとも慎重に指導されなければなければならない。新しい工場を創設したり、発電所や鉄道を建設したり、広大な地域の土地改良をしたり、あらゆるカテゴリーの必要熟練労働力を所定期間内で養成したり、さらにはこれらの新しい建設を、現存する経済や工業計画ないしは一般的な経済計画に一致させたりすること、これらすべてを一経済年の範囲内で完成させることはおそらくできまい。肝心なことは、何年か先の経済的結果を見越した大規模な建設や仕事の計画化を行なうことである。この経済的結果は、今後数年間のうちに明らかとなる。年間計画は、将来の5ヵ年計画の一定部分として検討されなければならない。すなわち、一方では、年間計画は、5ヵ年計画にもとづいて定められた課題のしかるべき部分を遂行しなければならず、他方では、5ヵ年計画は、当面する作戦計画によってその中にもたらされる変化と結びついて、年々修正されなければならない。

 社会主義経済の本質そのものから出てくるこうした種類の遠大な計画を、5〜10年間にわたって経済のあらゆる諸要素の動きがあらかじめ完全に計算されたものとして作りえないのはまったく明らかである。実際に肝心なことは、目的をもった課題を設定することであり、計画化の時期において、また実行の過程において、それらの諸要素を創造的に統一していくことなのである。この種の問題に対する正しいアプローチに到達することができるのは、近代産業のうちに秘められた威力やその変革力を理解する場合のみであり、経済問題における些事拘泥主義や追随主義を克服する場合のみであり、国の工業化に関する14回大会の主要な指令を真にわがものとする場合のみであろう。

                ※  ※  ※

 計画を作成し実行する現在の手順は、それを簡略化して最高計画機関――何よりもゴスプラン――の注意をより大きな計画上の問題に集中するために、根本的に見直されなければならない。こうしたことのためには、

 1、経済建設、とりわけ新規の建設のための基本的な諸要素を正しく発展させることと、その諸要素が労農国家の課題やその成長可能性と完全に一致することとが、国家の最高計画機関の計画作業の中心でなければならない。

 2、最高計画機関が最下級の機関によってなされた技術的計算を詳細にチェックするようなことはやめる必要がある。最下級の機関によって行なわれる仕事に対する責任をより多くその機関自身に任せて、位置づけのより高い問題の解決に前者の注意を集中するために、である。

 3、営業計画に関する計画化の細目を詳細に検討することは大幅に少なくしなければならない。そして、この仕事とそれに対する責任は実施機関に集中し、最高機関にはただ、計画を機関相互の間で一致させ、さらに国営経済および国民経済全体の発展の歩みに一致させる仕事を残しておくべきである。

 計画の作成と承認の手順を根本的に簡略化することによってのみ、作成される計画の質を高め、それをタイミングよく実施することができ、さらに指導的な計画機関が大規模な経済設計と社会主義建設という根本的な仕事に本当に集中することができるようになるのである。

 

  5、賃金

 経済上の困難のおかげで、現時点では賃金の大幅な上昇という方針をとることはできない。しかし党は、達成されている賃金水準が不十分であることを認めて、賃金の分野で次のようなものを自らの課題として提起しなければならない。

 (a)近い将来における実質賃金の切り下げを禁止すること。

 (b)賃金のさらなる上昇のための物質的前提条件をつくること、すなわち、

  (1)貨幣賃金がしかるべき商品供給を受け取ることができるよう(労働者の家計の40〜50%は日用生活品に費やされている)、26〜27年に工業の水準を十分に上昇させること、

  (2)工業の技術的な装備を、粘り強く系統的に更新すること。これのみが、労働者の生活の物質的な水準を不断にかつ計画通りに向上させることを保障するのである。

エリ・トロツキー

1926年4月12日

『トロツキー・アルヒーフ』第1巻所収

『トロツキー研究』第3号より

  

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