ファシズムと植民地世界

トロツキー/訳 湯川順夫

【解説】これは、メキシコで開催を予定されていたスターリニスト主催の「反戦反ファシズム大会」への反スターリニスト代議員およびそうなる可能性のある活動家に対して共同のアプローチを提起するために書かれたものと思われる。なお英訳者の注釈によると、ロシア語原文にも第5項は含まれていない。

 本稿の最初の邦訳は『トロツキー研究』第31号だが、今回アップするにあたって訳注を補充した。

 L.Trotsky, Fascism and the Colonial World, Writings of Leon Trotsky(1937-38), Pathfinder, 1976.


 1、 ファシズムは帝国主義の最も凶暴で嫌悪すべき形態である。しかし、このことは、帝国主義が民主的仮面をつけたからといって労働者階級と被抑圧人民がその帝国主義を甘んじて受け入れなければならないことをけっして意味するものではない。ラテン・アメリカ人民は、日本やドイツやイタリアの支配下に入ることを望んでいない。だが、このことは、メキシコがイギリス帝国主義や北米帝国主義による天然資源や国内政策に対する支配を許せるということをけっして意味しない。後進国の労働者階級と人民は、ファシスト的死刑執行人であろうと「民主的」死刑執行人であろうと、いずれの執行人に首を絞められることも望んでいない。 

 2、 日本は中国を植民地にしようとしている。イタリアとドイツは、フランスとイギリスの植民地に手を伸ばしつつある。この意味で、これらの諸国は「侵略者」である。だが、このことは、労働者階級と被抑圧人民がフランス、イギリス、オランダ、ベルギーなどの国々の植民地保有権を擁護する責務があることをまったく意味しないのである。真の革命派の任務は抑圧的な植民地体制を一掃することである。われわれのスローガンは、「言葉の上ではなく行動ですべての民族に自決権を。すべての植民地の完全な真の解放を!」である。 

 3、 人類の将来はインド、中国、インドシナ、ラテン・アメリカ、アフリカの運命と分かちがたく結びついている。真の革命派と社会主義派と真摯な民主主義派は、これらの人民――これら諸人民が人類の多数を占めている――の側に全面的に立つのであって、その抑圧者がどんな仮面をつけて登場しようとも、抑圧者の側には立たない。自分たち自身の「民主主義」を防衛するという口実で植民地体制を能動的に――、あるいはたとえ受動的であっても――それを支持する者は、労働者階級と被抑圧人民の最悪の敵である。われわれとそのような連中とはまったく違った道を歩む。 

 4、ファシズムに反対する闘争において、われわれは心からスペイン人民の側に立つ。だが、スペイン革命勝利のための初歩的条件は、共和国スペインからゲ・ペ・ウを追放し、スペインの労働者と農民の革命的イニシアチブを無制限に発揮させることである。このようにしてはじめて、スペインの人民大衆は、国内と外国のファシストに反対して自己を再び動員することができる。このようにしてはじめて、フランコの足もとからその社会的、軍事的基盤を引き剥がすことができる。 

 6、後進国にとって、ファシズムに反対する道は何よりも、民族独立と土地の所有関係の根本的変革のための革命闘争の道である。農地革命なしに民族独立もファシズムからの救済もない。農民と人民全体の利益のために土地資産と国内資源の没収を妨げる者は誰であろうと、ファシズムを助けているのである。友好と民主主義に関する曖昧な一般的な言辞だけでは十分ではない。資本の王侯どもと彼らの見せかけの「民主主義」の側に立つのか、それとも労働者、農民、被抑圧人民の真の民主主義の側に立つのか、明確な立場をとらなければならない。

 スターリニスト官僚と帝国主義的民主主義とのブロックの「平和主義」を人民に信じさせることができると思っているメキシコの社会主義者や民主主義者は、その政治的無分別さで目立っているにすぎない。メキシコの労働者階級をゲ・ペ・ウと帝国主義的平和主義者とのブロックに従属させようと試みているロンバルド=トレダーノ() [左の写真]の類の紳士諸君は、メキシコ・プロレタリアートの利益とメキシコ人民の民族的利益に対する完全な裏切り者である。

 メキシコがロンバルド=トレダーノの政治的路線に誘い込まれるままにまかせるならば、すなわち、進んでクレムリンとホワイトハウスとの取引における小銭として利用されるにまかせるならば、それはメキシコの民主主義のみならず、この国の独立をも破壊するだろう。

 メキシコ人民は、スペインで用いられた方法――フランコの方法とスターリンの方法――が自国に移植されるのを望んでいないし、そうした移植を許すことはできない。

 メキシコの労働者と農民は、何億もの被抑圧非白人種と手を取り合い、帝国主義諸国の何億もの労働者と手を取り合って、自国の平和と自由と独立と幸福のために、そして全人類の幸福のために闘うだろう。

1938年8月

『トロツキー著作集 1937-38』(パスファインダー社)所収

『トロツキー研究』第31号より

  訳注

(1)ロンバルド=トレダーノ、ビセンテ(1893-1968)……メキシコのスターリニスト幹部で労働組合運動指導者。トロツキーがメキシコに亡命してから、メキシコ共産党の反トロツキー・カンパニアにおいて中心的役割を果たした。

 

トロツキー研究所

トップページ

1930年代後期