ジュオーとトレダーノ

トロツキー/訳 西島栄

【解説】フランスのアナルコ・サンディカリスト指導者で第1次世界大戦で社会愛国主義者に転落したレオン・ジュオーと、メキシコ労働運動のスターリニスト指導者ロンバルド=トレダーノをセットにして批判したトロツキーの論文はいくつか存在するが、これはその一つである。トロツキーは両者を帝国主義的民主主義の手先でるとみなしている。

 L.Trotsky, Jouhaux and Toledano, Writings of Leon Trotsky(1938-39), Second Edition, Pathfinder, 1974.


 比類なきレオン・ジュオー() [右の写真]は、同じく比類なきロンバルド=トレダーノ() [左下の写真]に電報を送った。この電報は次のような脅迫的な質問を提出している。メキシコの政府が石油利権を日本その他のファシスト諸国に与える準備をしているのは本当なのか? これはファシストの軍事力を強化し、国際的な破局をもたらすことを意味する。それは平和的な諸都市が炎上し、莫大な数の犠牲者が出ることを意味する、云々。悪さをしているところを見つかった生徒のような調子でトレダーノは答える。「いえ、いえとんでもない。メキシコはけっしてそのような利権を与えはしません!」。つい最近、同じトレダーノはこう叫んでいた。「メキシコはその石油をけっしてファシストに与えないだろう。イギリスはメキシコの石油なしにやっていくことはできない」云々と。これらの紳士諸君は、死活に関わる経済問題を空虚な宣言で解決することができると考えているのである! もしロンバルドが、ほんのわずかでも、革命的感覚とは言わないまでもせめて民族的尊厳の感覚を持っているならば(そして被抑圧国の市民はなにがしかの民族的尊厳の感覚をもっていてしかるべきだが)、はいつくばるような返事をジュオーに出しはしなかったろう。

 ジュオーはフランス帝国主義とイギリス帝国主義の直接の手先である。イギリスのひそみにならって、フランスは半植民地国に敵対して帝国主義的大所有者の利益を守るためにメキシコの石油をボイコットしようとしている。フランスとイギリスは、自国の空軍を使って、植民地における解放運動を弾圧している。このような状況下で、ジュオーにいったい口を開くどのような権利があるというのか?

 ファシストの暴虐に対する闘争、および帝国主義の暴虐一般、とりわけ平和的な諸都市への空爆に反対する闘争は、直接的であれ間接的であれ同じような犯罪に手を染めていない名誉ある労働者と農民によってのみ遂行できるし、遂行されなければならない。しかし、ジュオー、すなわち帝国主義の綱につながれた犬たる彼が、いったいどうしてメキシコの良き教師にして道徳的庇護者を詐称することができたのか? それは、彼が、自分の相手がどういう人物かをよく知っているからである。ジュオーは、トレダーノを被抑圧国の労働者大衆の代表者とみなしているのではなく、フランス「人民戦線」(悲しいかな、破滅してしまったが!)の手先、すなわち「民主主義的」帝国主義の同伴者的手先とみなしている。そしてジュオーは間違ってはいない。

1939年1月30日

『トロツキー著作集 1938-39』(パスファインダー社)所収

新規、本邦初訳

  訳注

(1)ジュオー、レオン(1879-1954)……フランスの労働運動指導者、アナルコ・サンディカリスト。16歳から組合運動に参加。1909年から労働総同盟(CGT)の書記長。第1次世界大戦においては自国の戦争政策を支持し、社会愛国派に。1919年以降、アムステルダム・インターナショナルの指導者の一人。1921年の統一労働総同盟(CGTU)分裂後もCGTの書記長にとどまり、1936年の両派の統一大会で書記長。第2次大戦中にヴィシー政府に逮捕されドイツで拘留。1945年の帰国後に再びCGTの書記長に。

(2)ロンバルド=トレダーノ、ビセンテ(1893-1968)……メキシコのスターリニスト幹部で、メキシコ労働者連合(CTM)の指導者。トロツキーがメキシコに亡命してから、メキシコ共産党の反トロツキー・カンパニアにおいて中心的役割を果たした。

 

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