スペイン共産主義者の十戒 

トロツキー/訳 西島栄

【解説】本稿は、1931年の4月革命(君主制の崩壊と共和制の成立)後のスペイン革命の基本原則について簡単に明らかにしたものである。ここで書かれているのは、スペインのみならず一般にどの中進国にもあてはまる原則を列挙したものであり、スペインの社会的・政治的状況の具体的分析にもとづいたスペイン革命論は、同年1月に書かれた論文「スペイン革命」や同年5月に書かれた論文「スペイン革命とそれをおびやかす危険」の方に詳しい。

 この論文はすでに『スペイン革命と人民戦線』(現代思潮社)に翻訳があるが、今回、『反対派ブレティン』に所収のロシア語原文にもとづいて訳し直している。

Л.Троцкий, Десять заповедей испанского коммуниста, Бюллетень Оппозиции, No.21/22, Май-Июнь 1931.


 1、君主制は権力を失ったが、それを取り返そうと望んでいる。有産階級はまだしっかり鞍に腰をすえている。共和党と社会党のブロックは共和革命の立場に立つようになったが、それは大衆が社会主義革命に進むのを阻止するためであった。言葉を信用するな! 必要なのは実践だ! まず手始めに、旧体制の最も著名な指導者と支持者を逮捕し、王朝とその最も血塗られた手先から財産を没収せよ! 労働者を武装せよ!

 2、共和党と社会党に支えられた政府は、その基盤を全力を尽くして右に、すなわち大ブルジョアジーと大地主の方に広げようとし、譲歩と屈服を代償にして教会を中立化しようとするだろう。この政府は、被搾取者に対する防壁として作られた搾取者の政府である。プロレタリアートはブルジョアジーの共和党・社会党的代理人の政府と非妥協的に対立する。

 3、社会党の政権参加は、労働者と社会党指導者との衝突がいっそう発展していくことを意味する。このことは革命的統一戦線政策に広大な可能性を切り開く。ストライキの一つ一つ、デモの一つ一つ、労働者と兵士の接近の一つ一つ、下からの国の真の民主化に向けた行動の一歩一歩が、今後、「秩序」派としての社会党指導者の抵抗にぶつかることだろう。それだけにますます、共産党労働者が社会党労働者やサンディカリスト労働者や無党派労働者とともに統一戦線に参加して彼らを引っ張っていくことは重要になる。

 4、共産主義労働者は現在スペインではごく小さな少数派にすぎない。彼らは直接に権力を展望することはできない。現時点では、共和党=社会党政府の暴力的転覆を実践的課題にすることはできない。こうした方向をめざす試みはすべて破滅的冒険になるだろう。労働者、兵士、農民の大衆は、共和主義的・「社会主義的」幻想の時期を通過しないわけにはいかない。だがそれによって、後に、いっそう完全かつ決定的にそうした幻想を一掃することができるだろう。美辞麗句に酔うなかれ! 事実を直視せよ! 第二の革命、労働者革命を倦まずたゆまず準備せよ。

 5、いま始まったばかりの時期における共産主義者の課題は、労働者の多数派、兵士の多数派、農民の多数派を獲得することである。そのためには必要なのは何か。煽動を展開すること、カードルを教育すること、「忍耐強く説明すること」(レーニン)、組織を建設することである。これらすべてを、大衆の経験と、この経験への共産主義者の積極的な参加にもとづいて行なうこと。すなわち、広範かつ大胆な統一戦線政策が必要なのだ!

 6、共産主義者は、共産主義的煽動と批判の自由を直接ないし間接に制限したり弱めたりするようなどんな協定も、共和党=社会党ブロックやその一部分とは結ばない。共産主義者はあらゆる場所で変わることなく人民大衆に向かってこう説明するだろう。あらゆる種類の君主制的反革命に対する闘争において共産主義者はその先頭に立つが、しかし共和党や社会党とのいかなる政治的ブロックもこの闘争には不必要である、なぜならこれらの党の政策は必然的に、反動勢力に有利になるような譲歩とこの勢力の陰謀を隠蔽することにもとづいているからである。

 7、共産主義者は最も急進的な民主主義のスローガンを掲げる。すなわち、プロレタリア組織の完全な自由、地方自治の自由、国民によるすべての公務員の選出、18歳以上の男女によるすべての選挙への参加権など。また、労働者民兵の創設、それに続いて農民民兵の創設。さらに、人民のため、とりわけ失業者と貧農を援助するため、兵士の待遇を改善するために王室と教会のすべての財産を没収し、国家と教会とを完全に分離すること。

 あらゆる市民権と政治的自由を兵士に認めること、軍隊で司令部を選挙で選ぶこと、兵士は人民の死刑執行人でも、有産者の武装傭兵でも、王室のための近衛兵でもなく、革命的市民であり、労働者と農民の血をわけた兄弟である。

 8、プロレタリアートの中心的スローガンは労働者フンタ(ソヴィエト)である。このスローガンを倦まずたゆまず宣伝し説明し普及し、機会がありしだいその実現に着手しなければならない。労働者フンタは、権力のための闘争にただちに入ることを意味するものではけっしてない。それは疑いもなく将来の展望であるが、大衆がそうした立場に立つようになるには、たとえ共産主義者の啓蒙活動の助けをかりたとしても、大衆自身の厳しい経験を通じる以外にはない。労働者フンタは、今のところ、プロレタリアートの分散した勢力を一個の全体に結集し、労働階級の統一とその自主活動のために闘争することを意味する。労働者フンタが取り組むのは、ストライキ労働者への支援、失業者の援助であり、労働者と兵士との血の衝突を未然に防止するために両者の結びつきを確保することであり、労働者と貧農の同盟を実現するために都市と農村との結びつきを確保することである。労働者フンタは兵士代表をも自らの構成の中に引き入れる。このようにしてはじめて労働者フンタはプロレタリア蜂起の機関となり、その後に権力の機関となるのである。

 9、共産主義者はただちに革命的農業綱領の作成にとりかからなければならない。その綱領の基礎は、貧農と兵士の利益のために、王室と教会をはじめとする特権階級、富裕階級、搾取者の土地を没収することでなければならない。この綱領は、各地方の状況に応じて具体化されるべきである。それぞれ経済的・歴史的特殊性を持った各地方において、その地域の革命的農民との密接な協力のもとに農業綱領の具体的作成のための委員会をただちに設置しなければならない。明確かつ正確に定式化するには、農民の声を傾けることができなければならない。

 10、いわゆる社会党左派は(誠実な労働者も含めて)、共産主義者に対しブロックへの参加を、さらには組織の統一さえ呼びかけてくるだろう。これに対して共産主義者はこう答える――「われわれは、労働者階級の利益のために、そして一定の明確な具体的課題のために、あらゆるグループ、あらゆるプロレタリア組織と手を取りあって活動する用意がある。まさにこの目的のために、われわれはフンタの創設を提案しているのである。さまざまな党に属する労働者代表がこのフンタの中で、あらゆる当面する諸問題、あらゆる焦眉の課題について議論する。労働者フンタは、共通した課題のためにさまざまな労働者組織が同盟するための最も自然で開かれた誠実な形態であり、最も健全な形態である。労働者フンタの中で、われわれ共産主義者は、自らのスローガンと自らの解決法を提案し、われわれの正しさを労働者に納得させようとするだろう。どのグループも、労働者フンタの中では完全な批判の自由を持っていなければならない。フンタによって提起された実践的諸課題ための闘争において、われわれ共産主義者は常に第一線を占めるだろう」。

 これこそ共産主義者が、社会党労働者、サンディカリスト労働者、無党派労働者に対して兄弟として提案する協力の形態である。

※  ※  ※

 自分自身の隊列を統一することによって共産主義者は、プロレタリアートと農民の圧倒的多数(=貧農)の信頼を勝ちとり、その武装した手のうちに権力を握り、社会主義革命の時代を切り開くだろう。

L・トロツキー

カディコイ、1931年4月15日

『反対派ブレティン』第21/22号

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