平和主義と中国

トロツキー/訳 初瀬侃・西島栄

【解説】本稿は ジャーナリストのロジャー・デヴリン氏の質問に対する回答であり、日中戦争に対してマルクス主義派のとるべき基本的な態度について述べている。

 本稿の最初の翻訳は『トロツキー著作集 1937-38』下(柘植書房)だが、『『トロツキーの中国論』(パスファインダー社)所収の英語底本にしたがって全面的に訳しなおされ、散見されたいくつかの誤訳が修正されている。

 L.Trotsky, Pacifism and Chian, Leon Trotsky on Chaina, Pathfinder Press, 1976.


 いわゆる平和組織というものは、労働者階級の平和組織も含めて、いささかも戦争にとっての障害物にはならない。主にコミンテルンによって組織された数多くの平和会議は、何の効果もない純粋に見せ物的な企画である。戦時には、この平和指導者たち、この敬虔な人道主義的紳士・淑女たちはすべて、1914〜18年にやったように自分の政府に帰っていき、その戦争政策を支持するであろう。

 今日、戦争の勃発を妨げている唯一の政治的要因は、政府の側が社会革命を恐れていることである。これはヒトラー自身が何回も言ったことだ。われわれはこのことから論理的結論を引き出さなければならない。労働者階級が革命的であればあるほど、労働者階級はますます帝国主義的支配階級に対立し、後者が武力による新しい世界分割の企図を実現することは、ますます困難になる。

 同時にわれわれは、帝国主義諸国と植民地・半植民地的な後進諸国とを注意深く区別しなければならない。この2つのグループに対する労働者組織の態度は同じではありえない。中国と日本との現在の戦争は、古典的な実例である。これが日本にとっては略奪の戦争であり、中国にとっては民族防衛の戦争であることはまったく議論の余地がない。日本帝国主義の意識的・無意識的な手先だけがこの両国を同一平面上に置くことができる。

 まさにそれゆえ、われわれは、日中戦争を前にしてすべての戦争に反対すると宣言する人びとには哀れみや憎しみしか覚えないのである。戦争はすでに現実となっている。労働者の運動は、奴隷化しようとする者と奴隷化される者との闘争において中立を維持することなどできない。中国と日本そして全世界の労働者運動は全力をあげて日本の帝国主義的山賊どもに反対し、中国の人民とその軍隊を支援しなければならない。

 このことは、中国政府と蒋介石を盲目的に信頼することではない。過去、とりわけ1925〜27年には、この将軍[蒋介石]は、外国帝国主義の手先であった北部の軍閥に対する軍事闘争において、労働者階級の諸組織に依拠していた。結局、1927〜28年には、彼は労働者階級の諸組織を武力で粉砕した。われわれはコミンテルンの致命的政策によって生じたこの経験から教訓を学ばなければならない。労働者階級の諸組織は、日本の侵略に対する正当で進歩的な民族戦争に参加する中で、蒋介石政府からの完全な政治的独立性を保持しなければならない。中国共産党は、1924〜25年のときと同じように、またしても中国労働者階級の運動を政治的に蒋介石と国民党に譲り渡すために猛烈な努力をしている。しかも今度は2回目だけに、それはいっそう恐るべき犯罪である。

 しかしそれと同時に、この犯罪に対する救済策となるのは、労働者階級の諸組織が「すべての戦争に反対」を宣言し消極的反逆の態度として武器をたたむことにあるのではなく、むしろ戦争に参加し、中国の人民を物質的・精神的に支援し、同時に農民と労働者大衆を国民党とその政府からの全面的独立という精神で教育することにある。われわれが蒋介石を攻撃するのは、彼が戦争を遂行しているからではない。とんでもない。われわれが彼を攻撃するのは、彼が戦争を拙劣に遂行しているからである。すなわち十分精力的に遂行せず、人民、とりわけ労働者を信頼することなく遂行しているからである。

 この恐るべき紛争において、日本に対する態度と同じ態度を中国に対してとる平和主義者は、ロックアウトとストライキを同一視する人物のようなものである。労働者運動は搾取者のロックアウトに反対し、被搾取者のストライキに賛成する。ところで、ストライキはしばしば、ストライキの最中に労働者運動を裏切る誤った指導者によって指導されることがある。だからといって、労働者がストライキへの参加を拒否してよいということにはならない。むしろ、だからこそ指導部の欠陥と裏切りに反対して労働者大衆を動員しなければならないのである。組織された労働者が、ストライキ中やストライキ後に自分たちの指導部を変更することも、しばしば見られる。こうしたことが中国で起こる可能性は大いにある。しかし、人民の側に有利な形でこの指導部の変更が起こるのは、中国と世界の労働者階級組織が日本に反対して中国を支援する場合のみである。

1937年9月25日

『トロツキーの中国論』(パスファインダー社)所収

『トロツキー著作集 1937-38』下(柘植書房)より

 

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